薬局業界について

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薬局業界の最新動向

経営者の高齢化、業界先行き不安、薬剤師不足、大手調剤・ドラッグストアのM&A攻勢などを背景に、調剤薬局のM&Aは増加の一途を辿ってきました。
本項では、薬局業界の最新データを基に、様々な角度から調剤薬局の業界環境を考察しました。業界成熟期を迎え、どの様にM&Aを考える必要があるでしょうか。

再編

大手企業の占有率が低く、今後もM&Aが活発に行われることが予想されるが、相場は右肩下がり。

全国の薬局数は、2020年に60,000店(コンビニエンスストアは全国で約56,000店)を突破し、小規模店舗が乱立している状態です。大手調剤チェーンのシェアは、最大手企業でもわずか3.7%、上位10社でも21.7%(調剤薬局専業チェーン上位10社で17.9%)、全体の約6割が個人薬局で構成され、突出したマーケット・リーダーと呼べる企業のいない低寡占市場です。但し、直近10年間においては非公表ベースの水面下で年間500~1,000店舗ペースでのM&Aが行われており(厚生局より当社調べ)、今後ますます寡占化が進むと予想されます。
一方、政府の医療費削減の方針は続くと見られ、薬価引き下げや調剤報酬の下落により、調剤薬局の利益は縮小傾向が予想されます。規模の経済が働きやすい市場でもあるため、大手調剤チェーンのスケールメリットを求めた合併・買収は、今後も継続する見通しです。しかし、直近数度の報酬改定にて、一定の規模感を有する調剤チェーンの技術料は大きく引き下げられ、収益に大きな影響を与えました。また、度重なる消費増税に加え、2021年からは毎年の薬価改正がスタートし、技術料のみならず薬価差益もますます減少していく環境となりました。そのような環境の中、薬局M&Aの相場も右肩下がりの下落傾向が予想されます。
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調剤売上高ランキング

  • 調剤薬局
  • ドラッグストア
2021年度
順位 会社名 総売上 調剤売上(百万円) 占有率 調剤店舗数
1 アインHD 316,247 283,111 3.7% 1,099
2 日本調剤 299,392 260,892 3.4% 696
3 ウェルシアHD 1,025,947 199,208 2.6% 1,839
4 クラフト 176,200 176,200 2.3% 917
5 クオールHD 166,199 142,311 1.8% 809
6 スギホールディングス 625,477 132,743 1.7% 1,166
7 総合メディカル 161,638 115,850 1.5% 747
8 I&H 131,212 108,558 1.4% 574
9 ツルハホールディングス 915,700 102,871 1.3% 762
10 マツキヨココカラ&カンパニー 729,969 102,037 1.3% 856
11 共創未来グループ 1,266,171 91,801 1.2% 778
12 メディカルシステムネットワーク 106,685 91,056 1.2% 425
13 スズケン 2,232,774 88,821 1.2% 593
14 アイセイ薬局 73,768 68,169 0.9% 396
15 ファーマライズホールディングス 52,324 50,404 0.7% 350
16 たんぽぽ薬局 46,563 46,348 0.6% 145
17 クリエイトSDHD 338,476 36,808 0.5% 262
18 イオンリテール 205,606 34,712 0.5% 248
19 アポクリート 34,500 34,500 0.4% 148
20 フロンティア 51,553 33,463 0.4% 144
その他 5,506,037 71.5% 47,997
合計 7,705,900 100.0% 60,951

※2021年度各社有価証券報告書、ドラッグマガジン等より抜粋。一部当社推計。
※詳細の把握が難しい企業については除外。
※厚生労働省 統計資料参考。

ドラッグストアの売上高ランキング

2021年度
順位 会社名 売上(百万円) 占有率 店舗数
1 ウエルシアHD 1,025,947 12.0% 2,457
2 マツキヨココカラ&カンパニー 950,000 11.1% 3,325
3 ツルハHD 911,590 10.7% 2,522
4 コスモス薬品 750,000 8.8% 1,244
5 サンドラッグ 648,734 7.6% 1,281
6 スギHD 625,477 7.3% 1,483
7 富士薬品 354,925 4.2% 1,372
8 クリエイトSDHD 331,914 3.9% 723
9 クスリのアオキHD 305,880 3.6% 826
10 カワチ薬品 279,462 3.3% 355
11 ナチュラルHD 251,426 2.9% 511
12 イオンリテール 205,606 2.4% 334
13 ドラッグストアモリ 166,285 1.9% 344
14 中部薬品 154,917 1.8% 478
15 Genky DrugStores 142,376 1.7% 378
16 キリン堂HD 131,428 1.5% 392
17 薬王堂HD 120,310 1.4% 358
18 セキ薬品 85,038 1.0% 200
19 トモズ 84,829 1.0% 230
20 ザグザグ 83,621 1.0% 170
その他 931,035 10.9% 2,742
合計 8,540,800 100.0% 21,725

※2022年度各社有価証券報告書、ドラッグマガジン等より抜粋。一部当社推計。
※詳細の把握が難しい企業については除外。

市場規模推移

近年では、大手ドラッグチェーンによる調剤薬局M&Aも積極的に行われています。
ドラッグストア協会は、2025年に市場規模10兆円を目指し、その20%に当たる2兆円程度を調剤売上が占めることになるという予想を発表しており、今後も大手ドラッグストアによる積極的なM&A戦略が予想されます。
また、薬剤師不足が緩和されてきた事などを背景に、既存店の調剤併設化が急増しており、M&A戦略と併せ、ドラッグストアの調剤売上が大きく増加することとなりました。
既にドラッグストアのみでの調剤売上高は1兆円を突破し、調剤売上全体の15%以上をドラッグストアが担っている計算になります。今後もこの比率は増加して行く見込みです。
上図は、調剤薬局とドラッグストアの市場規模の推移ですが、ドラッグストア市場の堅調な拡大の中で、調剤売上が大きく寄与していることは間違いありません。
昨今開始されたリフィル処方箋とドラッグストアの相性が良く、その普及次第では、更に多くの処方箋がドラッグストアへ流れると言われています。
将来的には、ドラッグストアの店舗整理も始まると思われ、大手ドラッグストアから個人や地場中小企業への店舗譲渡も増加する可能性が高いと思われます。

成熟

医薬分業伸び率の成長ペースが鈍化

2000年代に入り、医薬分業伸び率の鈍化が鮮明になってきました。2020年度分業率の全国平均は、過去最高の75.7%に達しましたが、2021年度では、これまで上昇し続けてきた分業率が初めて減少に転じる結果となりました。コロナ禍による影響が有ることは間違いないものの、過去と比較すると2000年代以降は伸び率が緩やかになってきているのが分かります。また、各都道府県によってバラつきはあるものの、分業率の上限と見られていた70%を全国平均で大きく上回り、今後急激な分業率の上昇は期待できません。分業率の鈍化とともに処方箋枚数の伸びも鈍化してきており、過去の様に、報酬改定・薬価改正・消費増税等による収益の減少の穴埋めを、処方箋枚数の増加に期待することは難しい環境です。

※各社決算報告資料等より抜粋。一部当社推計。
※詳細の把握が難しい企業については除外。

分業率の成長鈍化は、すなわち新規出店機会の減少を意味します。大手調剤の新規出店ペースは、2013年をピークに減少傾向を続けてきました。2021年度では、総合病院の敷地内薬局の出店増加で一時的に増加していますが、全体的に新規出店は低調が続いています。反対にM&A件数は2016年まで年々増加を続けてきました。 大きなターニングポイントとなった2018年報酬改定により大手チェーンの基本料が減少し、様子見ムードが漂う中、M&Aは一時的に鈍化しました。すぐに復調となったものの、コロナの影響で積極的なM&Aを控える傾向が顕著となり、直近は低調な件数動向となっています。 しかし、成長力を維持するために、M&Aによる規模拡大戦略は引き続き必須であり、更に、大手チェーンのみならず、中小企業・ドラッグストア、異業種も薬局M&Aに積極的な姿勢を示しており、今後もM&Aは増加を続けると思われます。

逆風

ただ処方箋を待っているだけでは淘汰される時代
薬価差益の減少や加算の廃止や算定要件の厳格化による技術料の減少=収益力の低下

過去診療報酬改定の推移

調剤報酬の改定実態
  薬価等改定率(%) 診療報酬改定率
(医科+歯科+調剤)(%)
診療報酬全体改定率(%) 調剤のみ改定率(%) 調剤実質改定率
(薬価等+調剤)(%)
1996年 -2.6 3.4 0.8 1.3 -1.3
1997年 -1.32 1.7 0.38 -1.32
1998年 -2.8 1.5 -1.3 0.7 -2.1
2000年 -1.7 1.9 0.2 0.8 -0.9
2002年 -1.4 -1.3 -2.7 -1.3 -2.7
2004年 -1 0 -1 0 -1
2006年 -1.8 -1.36 -3.16 -0.6 -2.4
2008年 -1.2 0.38 -0.82 0.17 -1.03
2010年 -1.36 1.55 0.19 0.52 -0.84
2012年 -1.38 1.38 0.004 0.46 -0.92
2014年 -0.63 0.73 0.1 0.22 -0.41
2016年 -1.33 0.49 -0.84 0.17 -1.16
2018年 -1.74 0.55 -1.19 0.19 -1.55
2019年 -2.4 -2.4
2020年 -0.99 0.55 -0.44 0.16 -0.83
2021年 -1 -1
2022年 -1.35 0.43 -0.92 0.08 -1.27

厚生労働省の統計データを参考にし、当社作成。

2035年には、国内総人口の約3割が65歳以上になると推測され、保険制度の維持には医療費抑制が急務です。厚生労働省は、医療費抑制策として、ここ20年間で倍増した薬剤料の削減を掲げてきました。薬剤料増加の原因を、薬価差益獲得を目的とした医薬品の過剰利用にあるとして、薬価の引き下げが行われています。これまで2年に一度であった薬価改定ですが、2021年からは中間改定が行われ、毎年薬価の調整が行われる事になりました。薬価が上昇する可能性は低く、薬価差益の減少を避ける方法はありません。
さらに政府は、後発医薬品調剤体制加算の導入でジェネリック医薬品の使用を促進してきましたが、政府目標である使用率80%をほぼ達成しており、将来的に後発医薬品調剤体制加算は廃止または基本料やその他加算の算定要件に組みこまれることなどが想定され、さらに技術料が減少する可能性も存在します。
在宅医療推進への方向転換がより明確となり、薬局の機能を高める目的で、地域連携薬局の認定制度も始まりました。また、地域支援体制加算の算定要件である在宅対応件数も段階を踏んで増加されており、ただ処方箋を待っているだけの薬局は淘汰される時代となって来ているのではないでしょうか。

薬価政策の今後の行方を占う調剤医療費の推移

2021年の国民医療費は44.2兆円にのぼり、わずか20年間の間に10兆円以上が増加しています。その内の約7.7兆円を調剤報酬が占めていますがその主因は、こちらも20年間で2倍以上に増加した薬剤料です。
厚生労働省は、医療費削減を掲げていますが、深刻な高齢化社会である日本において、薬剤使用量そのものを削減することは容易ではありません。そのため、薬剤料の削減は、薬価の引き下げや、ジェネリック医薬品の促進に頼らざるを得ない状況です。

後発医薬品体制加算の今後

調剤報酬改定を重ねる度に、後発医薬品調剤体制加算の算定条件は厳しさを増し、多くの薬局が新基準を満たせず、収益減少を余儀なくされる環境になりました。
政府は、ジェネリック医薬品の使用率目標を80%としていますが、直近では全体平均で79%以上とほぼ政府目標を達成しており、後発品促進による医療費抑制にも限界が近づいて来ました。
ただ、地域的な使用率のばらつきがあることから、2023年までに全都道府県で使用率80%を達成するという新たな政府目標が示され、引き続き、ジェネリック医薬品使用促進の方針です。
また、段階的な後発加算の算定要件の厳格化の中で、中堅中小薬局の中には、ハードルの高い後発品調剤体制加算の算定を諦め、薬価差益の「割引率」ではなくより「差益額」を大きく取れる先発品へシフトする逆流現象も起こっていますが、一定の使用率を下回る薬局には技術料の減算ペナルティが課されるなどの対応も取られています。

減益

異業種からの市場参入で競争はますます激化

大手調剤チェーンやドラッグストア、医薬品卸が、主な「大手」としてチェーン展開を拡大していますが、近年大手チェーンと異業種企業が提携する例が増えており、コンビニや家電量販店の調剤薬局併設型に加え、電鉄と提携した駅ナカや駅チカへの展開も見られるようになってきました。また、資金力の豊富な投資ファンドによる調剤薬局買収も増え、大手チェーンのみならず、異業種の積極的な市場参加により、再編の動きはさらに活発化する事は間違いありません。
Amazonや楽天など、大手ECモールの調剤参入も始まっており、これまで以上に調剤市場の競争は激化する見込みです。